ミシンを使ったものづくりで育てよう!
子どもの「プログラミング的思考」

磯部先生
磯部(いそべ) 征尊(まさたか) 先生
愛知教育大学
創造科学系技術教育講座 准教授
プログラミング教育の専門家。プログラミング的思考を教育や実務にどのように効果的に活用できるかを研究し、その成果をセミナーや書籍、論文を通じて広めています。
特に、プログラミング的思考を「問題解決力の育成」に結びつける視点が高く評価されています。

「ミシンを使ったものづくりは、プログラミング的思考のよいトレーニングになります」
そう語る教育のスペシャリストである磯部征尊先生へ、次世代を担う子どもたちになぜプログラミング的思考が必要なのか?
ミシンを使うことで、なぜプログラミング的思考を伸ばすことができるのか?について、お話を伺いました。


最近よく耳にする「プログラミング的思考」ってなんですか?

磯部先生

「目的達成のために情報をあやつる力」のことです。
例えば、「おいしいオムレツが食べたい」という目的があったとしましょう。
この目的を実現するためには、卵やバターなどの材料やフライパンなどの道具を用意し、それを「おいしくつくれるレシピ」でつくる…といった一連のプロセスを組み立てる必要がありますよね。
この場合、達成したい目的は「オムレツ」、必要な材料や道具やレシピが「情報」というわけです。
プログラミング的思考とは、こうした一連の「①情報を読み解く力、②情報を取捨選択する力、③情報を図式化する力」といった能力のことをさしているのです。


なぜ今、子どもたちにプログラミング的思考が必要なのでしょうか?

磯部先生

どんな時代に変化しても、活躍できる能力だからです。
プログラミング的思考は、「非認知能力」の一つと考えられています。
非認知能力とは、思考力や創造力、感情コントロール力など、学力や知能テストでは計れない内面的なスキルのこと。
現在、学校教育の現場では、この非認知能力こそ、子どもたちがよりよく生きるための最重要の能力と考えられています。
すべてが自動化され、生成AIが加速度的に進化している次世代の社会では、今以上に新しい技術や道具や情報を理解することが求められるでしょう。
そのとき、その環境に適応しながら情報をあやつるプログラミング的思考が、大きな武器となるはずです。
プログラミング的思考で情報を活用することで、新しいアイデアを生み出したり、問題解決をしていくスキルも高めていくことができたりするようになります。


ミシンのものづくりで、なぜプログラミング的思考が育つのでしょうか?

磯部先生

「情報を理解、活用して目的を達成する」というプロセスが良い訓練になるから。
現在、学校教育の現場では、専用のソフトを使って「プログラムの理解」から、「イメージしたものをつくる」といったプロセスを踏む、プログラミング教育が行われています。
このプロセスはまさに、ミシンを使ったものづくりと同じです。
ミシンを使うときには、「ミシンってどんな仕組みで動くのだろう」「自分が作りたいものを完成させるにはどんな縫い方がいいんだろう」と考える必要があります。
さらに、自分がつくりたいものを形にするためには、どんな布や糸、道具が必要なのか。どんなプロセスで進めればいいのか。そんな複数の情報も組み合わせて考える必要がありますね。
それはまさに「①情報を読み解く力、②情報を取捨選択する力、③情報を図式化する力」、つまり、プログラミング的思考を鍛えることに直結します。
自分の手を動かし、自分の力で目標を達成する――こうした創作活動は、結果として子どもの記憶に深く刻まれ、創造力の土台となります。
私は創造力に関する研究を行っていますが、「なにも思いつかない」「なにも考えられない」という、当初は創造力が弱いと思われた子どもも、正しく創作活動に向かわせるプロセスを踏ませることで、その力をグンと伸ばすことがわかっています。
その正しいプロセスこそが、「プログラミング的思考によるものづくり」だと、私は考えています。
こうした考えを進めるときに、そのミシンの構造が良くわかる「スケルトンミシン」であれば、子どもたちの興味をひきやすいうえ、構造の理解もスムーズになることでしょう。
まずは、ミシンを使ったものづくりをおやこで楽しんでみてください。
「この布が余っているんだけど、どんなものが作れそうかな?」
「ミシンをどう使えばいい?」「作るためにはどんな材料や道具が必要だろう?」
 こうしたプロセスを楽しみながら、トライ&エラーを繰り返しながら、頭と手を働かせたものづくりを楽しむ。この一連の流れがプログラミング的思考を働かせ、子どもの考える力、創造力を大きく飛躍させるトリガーになるはずです。ミシンをすることは、プログラミング的思考を育みます。